わが愛を信じろ
うちの嫁……本人が嫁というので嫁と呼ぶが、嫁さんは蛇である。大蛇である。かなりでかいアオダイショウである。 アオダイショウは毒は持たないが壁などものぼれる。嫁さんは俺に求婚すると言ってマンションの壁をのぼって俺の家のベランダに洗濯物を放り投げてまで自分の道を作ったような蛇なのでぶっちゃけ気遣いなどを気にしてはいなかったのだが。 「きょ、今日はだんな様のお誕生日だからな!」 俺の誕生日を忘れておらず、一生懸命に持ってきてくれたのであろうケーキを渡してくれた。嬉しすぎて久々に「一緒に寝るか!」と言ったのだが嫁さんの体はなぜかボロボロでさすがにやめることにした。いつも俺に巻きついてくるのだが、今日はちゃんと静養したほうがいい。 嫁さんは泣いていたが体の方が大事なんだからわかってほしい。 だんな様の誕生日なのでケーキを買いにいった。予約はしていたはずだが、大きすぎるから店には入れて貰えず、アスファルトの上でえんえんと待たされた。体は火傷を負いそうだったがだんな様のために我慢した。 だんな様のためにケーキを急いで持ち帰ろうとしたが、火傷しそうなほどに弱った皮膚はボロボロで我慢してゆっくりと帰った。邪魔だ、と蹴られたりしたが反撃はできなかった。ケーキがこぼれる。 家に着いてケーキを開けてみると、少し溶けていた。もっとはやく帰れたらよかったのに。泣きそうになったがそれでもだんな様に喜んでほしいのでさっさと冷蔵庫にしまうことにした。 家に帰ってきただんな様はケーキを見て怒ることなくとても嬉しそうだった。今日は久々に一緒に寝るか~と言われ、へへへと照れて出た舌がだんな様の顔にぶつかりそうになる。だんな様はスーツが汚れるのを嫌うので慌てて舌を戻そうとしたが、だんな様が舌を手に取りキスをしてくれた。もっとしてほしくて顔を下に向けたがだんな様は「なに!? 腹のところ傷あるじゃん!?」と叫んでいた。 「い、いや、これは」 「やっぱり今日の添い寝なし!!!」 「!? い、いやだ!」 「だめ! ちゃんと消毒して包帯巻いて安静にして寝てください!」 「いやだー!! だんな様と寝る! 決めた!!」 「お前、俺に抱きつかないって約束する?」 「!? だ、だんな様はおれのことが嫌いになったのか!?」 「怪我を悪化させないようにって話だけど」 「悪化しないから一緒に寝る!」 「悪化するかしないかは体の免疫機能が決めてくれるんだよ、わかるか……?」 いやだ~~! と文字通りの意味で家中をかけまわったがだんな様はノーとしか言わなかった。めそめそと泣いているおれに、だんな様は生クリームたっぷりのケーキをひとつ持ってくる。 「そんな体になるまで無理してケーキ持ってきてくれたんだから、そりゃ嬉しいけど。でも悪化させるようなことできないだろ」 「悪化しないし」 「するよ。……まあ、無事に治ったらもう少しなにか考えるかなあ」 人間の熱すぎる体は蛇には毒だ。だから夏にそうやって触れてもらうことはほとんどない。今日だったほんとうにほんとうーーに久々だったはずなのに。 だんな様、と声をかけると「無事に治ったらな」と言われた。はやく治すからちゃんと約束守ってねと舌をのばす。だんな様がわざと噛み付いてきて、たのしくなった。