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【独立記念日】  ゾンビになっても独立記念日をお祝いすることはないだろう。そう思っていたのだが、朝から破裂するような音に俺はベッドから落ちそうになった。ケビンは俺を見て自分も一緒に落ちた方がいいのか迷っていたのでゆっくりとその体を推し戻す。強い衝撃ではないがゾンビの体は壊れたらほぼ修復がきかない。いや、一応結びつけるなどの手段はあるが医療従事者でもない自分がそんなことをやるわけにもいかない。  ベッドに戻り窓の外を見るとヴィンセントの手下らしき男が自分たちの体も構わず花火をあげていた。昔はあったはずの向かいの家も瓦解してしまったので奥の公園もよく見えていた。 「おれも、みる。」 「見てもわからない。」 「わ、わかる!」  ぽんこつのケビンは置いてひとまず窓をしめてカーテンもしめた。あまり意味はないがしないよりはマシだろう。ケビンはカーテンをしめる=寝るだと思っているのか俺の腕を引っ張りいそいそと布団に戻ろうとする。 「ケビン、起きる。」 「……?? ねる。ちがう?」 「NO!」  ケビンに洋服を着せて一階におりるとのんびりとした所作でヴィンセントが家の何もつかないテレビを見てけたけたと笑っていた。相変わらず変な奴だ。彼がいないとこの世界で生きていけないのは確かだが、彼のことはちょっと信用できないところもある。 「それで、美食家さんはどうしてここに。」 「おはよう。」 「……おはよう。」 「うん、ちょっと独立記念日について僕はあまり知らないからさ……それを気になって人間たちに聞いてみてもうまく話してくれないし中には花火の一言しか言わないやつもいてね。とりあえず花火と爆竹は用意したんだけど。」  花火と爆竹は同じものではないと思う。ケビンはヴィンセントが来て嬉しいのやら恥ずかしいのやら俺の後ろにかくれたっきりになってしまった。 「邪魔したかい?」 「現在進行形で。」 「それは失礼した。」  ヴィンセントはそれでも帰ろうとしないのでさすがに俺も腹がへってくる。何か準備しよう、と思ったらケビンはやっぱり俺の体から離れない。 「……あのさ、ヴィンセント。」 「んー?」 「もしかしてわざと朝からここに来た?」 「え? もちろん。お祝いイベントで二人になって遊ぶなんてつまらないし。」  あっけらかんと言うこの男はやっぱり危険だな、と思った。  ネッドのにおいがする服はおれのお気に入りなのに、ヴィンツがくるなんて、しらなかった。とられないようにって思ったけど、ヴィンツはほしいと思ったらすぐにとっていってしまう。だから見せないようにしなきゃっておもった。  ネッドの背中にくっついていたらヴィンツはくすくすとわらって、ネッドは変なかおをしておれのことを見ていた。べえっと舌をだすとヴィンツもじぶんの長い舌をだしてくる。 「ケビン、しまう。」  ぎゅっと舌を元に戻した。ネッドの洋服がとられないためなのに! もう!! 【七夕】  7月7日だったか8月だったか。俺はもうよく覚えていないがケビンはちゃんと覚えているらしい。 「ネッド、みてぇ。」  へにゃりと笑ったケビンがちょこちょこ歩いてやってきた。最近になってケビンはヴィンセントに文字を教えてもらっていた。まだ簡単な文字しか書けないがここ最近はずっと俺の名前とハートマークを書いている。ケビンにはここら辺の意味が分かっているのだろうか。きっとわかってない。 「うまいうまい。」 「……もっと! みて!!」  ただでさえ顔面に突き付けられているその紙が額にべっとりとくっついた。見えない。全く見えない。 「ケビン、ちょっと。離そうか。」 「ん゛っ!!」 「見えない……。」  ケビンの腕をつかみ、ぐにゃりと曲げるとケビンはおとなしくそれにしたがった。何か遊んでくれるとでも思ってるのかもしれない。今は遊ぶよりもその紙が気になる。細長い長方形のそれはむかし……日本の留学生の女の子に聞いたことがある。タンザクというのだ。ひどくへたくそな字でネッド、と書かれていたそこには NED THINK ME CUTEとある。??? 願いごと、って俺に向けてするんだっけ? ううん……?? 「タンザク。…えっ、どうした?」 「???」  ケビンはタンザクを俺に見せて満足したのか「どうかした??」という顔で俺を見てくる。そういいたいのは俺だよケビン……。  この世界にはもう植物も勝手に育っているものだけでロマンチックなものなど何もない。せめてライト近くに飾ろうかと椅子を持ってきたらケビンは両手を開いて抱っこして、というポーズをする。なるほど俺に座らせること前提か。