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【バレンタイン】  ネッドに声をかけようとするといつも心臓がばくばく言う。あのさ、と言おうとすると喉がくっついてしまったみたいに声が出なくなる。恥ずかしい。ネッドは俺の方を見ない。そのままどこかに行こうとする。行っちゃヤダ、と昔の俺は駄々をこねたのに今はそれもできないから。知らない奴と、新しくできた店に行っちゃうのだ。  使わなくなったチケットは全部捨てた。俺には必要ない。捨てるのはとっても簡単だ。ビリビリと破いてしまえばいい。  こんな風にネッドへの気持ちも捨てることが出来たらいいのに。なんでだろう。どうしてもやめられない。  俺にとっての世界はネッドだけなのかもしれない。それがなくなったら、おれは俺じゃなくなるんだと思う。 【ぼろぼろのノート】  ケビンの家も荒れ果ててしまわないよう、時たま片付けに来るのだが。なぜかゾンビ状態になってもこれはダメ!と死守されているものがある。今日はケビンが美食家のもとで人間を食べる日だから俺は自由に家を見れるのだ。さて、あのボックスはどこだろうか。  探し始めて10分。何とかクローゼットの奥深くに壁にめり込んで設置されていたボックスを取り出せた。ゾンビって死なないから強いんだと思ってたけれど、もしかしてケビンは力の強い個体なのだろうか。そんなことを思いながら箱の中身を開けるとノートが入っていた。ノートだけ? 不思議に思いながらもその中身を見させてもらう。やけに血に染ったりしていてボロボロのノートだった。1枚目からもう血に染って読めなくなっている。何枚かめくってようやく読めるページにたどり着いた。  ネッドが俺に冷たい。  最初の一文からビビった。いや、ネッドなんてよくある名前だし……。  下にも文章は続いてるのにその横にあの下手くそな字が見えた。 「ネッドは、やさしい。」  ああ、これはあのケビンのノートだ。幼なじみの、彼のノートだ。 【手を繋ぐ】  ゾンビのケビンは時たま人間の時のような素振りをする。手を繋いでいると驚いた表情でこっちを見る。繋がれた手を見て俺を見てへにゃりと笑ったかと思いきや指を絡めてくる。ゾンビにそんな知能があるとは思えない。嬉しいのだから素直に握ればいいのに天邪鬼にもわざと指を離してしまう。ケビンはその時どちらかの反応をする。人間の時と、ゾンビに戻る時と。人間の時でも手を繋げばいいのに、諦めてしまうのはケビンの悪い癖だ。  ネッドはいじわるだ。なにがいじわるかって、ケビンがてをつなごうとすると わざとはなすのだ。  おれはなかないけど、もうひとりのケビンはないてしまう。かわいそうなケビン。ネッドがすきなのに、なんで てをつなげないんだろう。  手を繋ぐことも許されない。あいつは、俺を見ない。美しくないこの体でさえも、おれは、触ることが許されない気がしてたまらない。 【ベッド】  ケビン、と名前を呼ぶといそいそとこちらにやってくる。開いた口の中にはこの前埋めてやった肉片が糸をたらしていた。 「ケビン、ここ。」  ベッドを叩くともにょもにょと体をくねらせてからやってきた。ガサガサの体にクリームを塗ってやろうとしただけなのにどうやらベッドでのそれを期待していたらしい。クリームを取り出した瞬間ふみゅっと顔をつぶした。 「期待したのか? 残念ながら塗ったあとかなー。」  別にしたくないわけではない。ただ、ケアしないと彼らの体はいつ壊れてしまうか分からないから。痛覚がないからといって、その体を傷つけたいわけではないのだ。ひとしきり塗り終わってケビンに両手を開かせた。傷はなさそうだ。  ケビンの両手を見るのはただの合図のようなものである。物をあげるよりもケビンは俺と触れ合うことを好んだ。全く、気づかなかった俺も俺であるが  傷がないことを確認してから服を脱がさせた。彼らの知能では服を着ることも脱ぐこともできないのである。 続きが思い浮かばないのでここまで